産業保健について

ストレスチェックの基本をおさらい—義務化から10年、制度の正しい理解

「なんとなく実施している」では、もったいない

毎年秋から冬にかけて、多くの企業でストレスチェックの案内が届きます。従業員にアンケートを送り、集計結果を受け取る——そのくり返しの中で、「なぜこの制度があるのか」「正しく活用できているか」を改めて問い直す機会は、意外と少ないものです。

ストレスチェック制度が義務化されたのは2015年(平成27年)12月1日のことです。労働安全衛生法の改正によって導入されたこの制度は、施行から10年が経過した今、あらためて制度の目的・しくみ・事業主の役割を整理し、形式的な実施にとどまらない運用を考えてみましょう。

1 ストレスチェック制度の目的と法的位置づけ

ストレスチェック制度の目的は、大きく2つあります。一つは従業員自身がストレスの状態を把握し、セルフケアに活かすこと、もう一つは職場環境の改善につなげることです。メンタルヘルス不調を「早期に発見・治療する」という二次予防ではなく、不調が起きる前に気づき、職場全体として対処するという一次予防の考え方が根底にあります。

法的には、常時50人以上の労働者を使用する事業場に対して、年1回のストレスチェックの実施が義務づけられています。50人未満の事業場は現時点では努力義務とされていますが、2025年5月の法改正により、2028年4月1日からは50人未満の事業場にも義務化が拡大されることが決定しています。中小企業であっても、この機会に自社の体制を確認しておく意義は十分にあります。

実施の主体は事業者(会社)であり、実施者として医師や保健師、あるいは所定の研修を修了した看護師・精神保健福祉士などの資格を持つ専門職を選任する必要があります。外部機関に委託する場合も多く、その場合でも事業者が制度の運営責任を持つという点は変わりません。

2 制度のしくみ——3つのステップで理解する

ストレスチェック制度は、以下の3ステップで構成されています。

ステップ1:ストレスチェックの実施 従業員が質問票(国が推奨する「職業性ストレス簡易調査票」など)に回答し、自分のストレス状態を確認します。結果は実施者(医師・保健師等)から直接本人へ通知されます。事業者は本人の同意なしに個人の結果を把握することはできません。これはプライバシー保護の観点から非常に重要なルールです。
ステップ2:高ストレス者への面接指導 ストレスチェックの結果、高ストレスと判定された従業員が希望した場合、医師による面接指導が行われます。事業者はこの面接指導の申し出を拒むことはできず、費用負担も事業者が担います。面接後、医師から就業上の配慮に関する意見を受け、必要に応じて労働時間の短縮や配置転換などの措置を検討します。
ステップ3:集団分析と職場環境改善 部署や職場単位でストレスの傾向を集計・分析し(集団分析)、その結果を職場環境の改善に活かします。このステップは義務ではなく努力義務ですが、制度の本来の目的である「職場全体の改善」に直結するため、ぜひ積極的に取り組んでいただきたい部分です。

3 「実施したら終わり」からの脱却

10年間で制度への認知は広まりましたが、一方で「アンケートを配布・回収して終わり」という形式的な運用が定着している職場も少なくありません。ストレスチェックは、あくまでも職場改善のための入口です。

集団分析の結果を管理職と共有し、業務の進め方やコミュニケーションの課題を話し合う——そうした取り組みを重ねることで初めて、制度が「従業員の健康を守るツール」として機能します。また、従業員が安心して高ストレスの申告や面接指導の申し出ができる心理的安全性の醸成も、制度運用の重要な前提です。

人事・労務担当者としては、実施計画の策定、従業員への丁寧な説明、結果に基づくアクションの記録と見直しというサイクルを、毎年着実に回していくことが求められます。

まとめ——10年目の「問い直し」を

ストレスチェック制度は、単なるコンプライアンス対応ではなく、職場を健康にするための対話のきっかけです。義務化から10年が経過した今、自社の運用を振り返り、「制度の目的に沿った実施ができているか」を確認してみてください。制度の正しい理解が、従業員の信頼と職場全体の活力につながります。

参考資料

本コラムの制度説明は、以下の公的資料をもとに作成しています。

  • 厚生労働省「こころの耳」ストレスチェック制度について:https://kokoro.mhlw.go.jp/etc/kaiseianeihou/
  • 厚生労働省労働基準局安全衛生部「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」

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