「頑張っているつもり」が組織全体では見えていない
「うちの社員はちゃんと働いている。でも、どこか活気がない気がする」——そんな感覚を抱えている人事・労務担当者や経営者は少なくないのではないでしょうか。出勤率は高く、離職者も極端に多いわけではない。しかし、会議の発言は少なく、新しいアイデアもなかなか出てこない。この「なんとなくの停滞感」の正体を探るうえで、近年注目されているのが**ワーク・エンゲイジメント**という概念です。
ワーク・エンゲイジメントとは、仕事に対して「活力(vigor)」「熱意(dedication)」「没頭(absorption)」の三つを感じている、持続的かつポジティブな心理状態を指します。厚生労働省「こころの耳」では、ワーク・エンゲイジメントを「バーンアウト(燃え尽き)の対概念」として位置づけており、単なる「やる気」ではなく、仕事そのものへの積極的な関与と定義されています(出典:厚生労働省「こころの耳」)。
問題は、この状態を「測れるのか」という点です。感覚的にはわかりそうでいて、実際に数値として把握できるものなのか——今回は、その可視化の方法と、組織として活用する意義についてお伝えします。
ワーク・エンゲイジメントは「測定できる」
結論からいえば、ワーク・エンゲイジメントは測定可能です。
代表的な測定ツールとして、オランダのユトレヒト大学が開発した**UWES(Utrecht Work Engagement Scale)**があります。「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」「自分の仕事に誇りを感じる」「仕事に没頭しているとき、幸せだと感じる」といった設問に対して、従業員が0〜6点のスケールで回答する形式です。厚生労働省「こころの耳」でも、このUWESを活用したセルフチェックの仕組みが紹介されており、個人レベルで自身のエンゲイジメント状態を確認できるようになっています(出典:厚生労働省「こころの耳」)。
また、厚生労働省が事業者向けに推進する**ストレスチェック制度**(労働安全衛生法第66条の10に基づく)においても、仕事のストレス要因・ストレス反応・周囲のサポートの三領域を測定する中で、エンゲイジメントに関連する項目が含まれています。ストレスチェックは従業員50人以上の事業場で義務化されており、その結果を組織全体の傾向として集計・分析することで、職場単位の「活力の状態」を把握する手がかりになります(出典:厚生労働省「職場のメンタルヘルス」)。
可視化して、はじめてできること
数値として把握することの最大の意義は、「課題を共通言語で議論できる」点にあります。
「あの部署は何となく雰囲気が悪い」という感覚的な判断ではなく、「A部門のエンゲイジメントスコアがB部門より有意に低い」というデータがあれば、原因分析と対策立案を客観的に進めることができます。たとえば、スコアが低い部門で「上司からのフィードバックが少ない」「業務量の偏りがある」といった要因が浮かび上がれば、具体的な改善アクションにつなげやすくなります。
Point 厚生労働省「職場のメンタルヘルス」では、働く人のメンタルヘルス対策として「一次予防(未然防止)」「二次予防(早期発見・対処)」「三次予防(職場復帰支援)」の三段階が示されています(出典:厚生労働省「職場のメンタルヘルス」)。ワーク・エンゲイジメントの測定と向上は、この中でも特に一次予防に位置づけられます。不調が顕在化してから対処するのではなく、従業員が高いエンゲイジメントを持って働き続けられる環境を整えることが、メンタルヘルス問題の根本的な予防につながるのです。
まとめ:測ることは、支えることの第一歩
ワーク・エンゲイジメントは、感覚的な「やる気」とは異なり、科学的な手法で測定できる概念です。UWESのような標準化されたツールや、ストレスチェックの集団分析を活用することで、従業員の「活力」を組織全体で可視化し、データに基づいた職場改善が可能になります。
まず取り組めるアクションとして、以下の三点をご提案します。
「測る」ことは目的ではなく、従業員を支えるための出発点です。可視化されたデータをもとに、一人ひとりが活力を持って働ける職場づくりを、今日から始めてみてください。
- 厚生労働省「職場のメンタルヘルス」:https://www.mhlw.go.jp/kokoro/workplace/index.html
- 厚生労働省「こころの耳」:https://kokoro.mhlw.go.jp/
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