健康経営について

人的資本経営と健康経営はどう違う? つながりをわかりやすく整理する

似ているようで違う、二つの経営概念

「人的資本経営」と「健康経営」近年、人事・労務の現場でこの二つのキーワードを耳にする機会が増えています。どちらも「人」を大切にする経営姿勢を示す言葉であるため、「同じことでは?」と混同されることも少なくありません。一方で、「なんとなくわかるが、明確に説明できない」という担当者の声もよく聞かれます。

この二つの概念は、確かに密接に関連しています。しかし、対象とする範囲や、重点を置く領域が異なります。それぞれの定義と違いを整理し、両者がどのようにつながるのかを理解することが、実効性のある人材戦略を構築する第一歩となります。

1「人的資本経営」とは何か人材を「資本」として捉える視点

人的資本経営とは、人材を単なるコストではなく「資本」として捉え、育成や職場環境の整備などを通じてその価値を最大限に引き出し、中長期的な企業価値の向上につなげる経営のあり方です。

2023年3月期決算企業から、有価証券報告書を提出する企業には、人的資本に関する情報の開示が求められるようになり、上場企業を中心に取り組みが加速しました。

有価証券報告書では、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設され、人材育成方針や社内環境整備方針、それらに関する指標、目標及び実績などを記載することが求められています。また、一定の企業には、女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差といった多様性に関する指標の開示も求められます。

従業員の健康や安全については、すべての企業に共通する独立した開示項目として、一律に義務づけられているわけではありません。ただし、自社の人材戦略や企業価値にとって重要な事項であれば、人的資本に関する方針や指標の一つとして開示することが考えられます。

ここで重要なのは、人的資本経営が単に「何を開示するか」を決める取り組みではないという点です。「どのような人材が必要か」「何に投資するか」「その成果をどのように測定するか」という経営判断そのものを変えていく取り組みです。

従業員のエンゲージメント、離職率、スキルの習得状況などに加え、休職者数やメンタルヘルスの状況、相談窓口の認知度・利用状況なども、人材戦略や職場環境を検討するための重要な情報となります。

ただし、相談窓口の利用率については、高いから問題が多い、低いから良好であると単純に判断することはできません。窓口の周知状況、相談のしやすさ、相談内容、職場環境などと合わせて評価する必要があります。

2「健康経営」とは何か従業員の健康を戦略的に守る取り組み

健康経営とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で捉え、健康保持・増進に向けた取り組みを戦略的に実践することです。

経済産業省は、2014年度から「健康経営銘柄」の選定を行い、2016年度には「健康経営優良法人認定制度」を創設しました。この制度の普及により、多くの企業が身体的な健康だけでなく、メンタルヘルス、働き方、職場環境の改善などを含めた施策に取り組むようになっています。

厚生労働省の「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)」では、労働者の仕事や職業生活における不安やストレスの状況などが調査されています。職場におけるストレスやメンタルヘルス不調は、欠勤、休職、離職、生産性の低下などにも影響し得る重要な経営課題です。

健康経営の文脈でメンタルヘルス対策が重視される背景には、「不調が重篤化してから対応する」のではなく、日常的な取り組みによって不調を予防し、早期に対応するという考え方があります。

厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、次の「4つのケア」を継続的かつ計画的に進めることが重要とされています。

セルフケア
ラインによるケア
事業場内産業保健スタッフ等によるケア
事業場外資源によるケア

カウンセリングは、「重い問題を抱えた人が利用するもの」というイメージを持たれがちです。しかし、実際には、日常的なストレスや職場の悩みを早い段階で相談し、問題の深刻化を防ぐための場としても機能します。

公認心理師や産業カウンセラーなどによる専門的な相談支援は、不調が生じた後の対応だけでなく、早期相談の促進、セルフケアの支援、管理職への助言といった予防的・教育的な役割も果たします。そのため、専門的な相談窓口は、健康経営を支える重要な機能の一つといえます。

3二つの概念はどこでつながるのか健康・安全とウェルビーイングが接点になる

整理すると、両者の違いは以下のように表せます。

人的資本経営:人材を経営資本として位置づけ、経営戦略と連動した投資、育成、測定、情報開示を行う「経営戦略の枠組み」
健康経営:従業員の健康保持・増進を経営的な視点から進める「実践的な取り組み」

この二つをつなぐ共通領域が、従業員の健康・安全とウェルビーイングです。なかでも、メンタルヘルスケアは重要な接点となります。

従業員のメンタルヘルスが損なわれれば、十分に能力を発揮できなくなり、エンゲージメントの低下、欠勤、休職、離職などを通じて、企業の人的資本が失われる可能性があります。

反対に、安心して相談できる体制が整い、ストレスや不調を早期に把握して支援できる環境があれば、従業員の健康維持、就業継続、能力発揮を支えることにつながります。

カウンセリング窓口の設置やEAP(従業員支援プログラム)の導入は、健康経営を支える施策の一つです。また、その目的、実施状況、利用状況、組織への効果などを人材戦略と結びつけて説明することで、人的資本の維持・強化に向けた取り組みとして情報開示に反映することもできます。

ただし、相談窓口やEAPを導入しただけで、人的資本経営が実現するわけではありません。制度の周知、相談者のプライバシー保護、相談後の適切な支援、組織課題の把握と改善などを継続的に行うことが重要です。

まとめ

「施策の整合性」が人事戦略の質を高める

人的資本経営と健康経営は、対象範囲と焦点が異なる概念です。

人的資本経営は、人材の採用、育成、配置、多様性、エンゲージメント、健康・安全などを含む広い経営戦略です。一方、健康経営は、その中でも従業員の健康保持・増進に重点を置いた取り組みです。

両者は、人材の価値を維持・向上させ、持続的な企業価値につなげるという方向性を共有しています。

人事・労務担当者には、両者を切り離して管理するのではなく、「健康経営の施策が、人的資本のどの課題や指標に貢献するのか」という視点で整合性を持たせることが求められます。

例えば、相談窓口の設置についても、設置の有無だけを確認するのではなく、次のような観点から評価することが重要です。

従業員に窓口が認知されているか
安心して相談できる仕組みになっているか
相談後に必要な支援につながっているか
相談から得られた組織的な課題が、個人を特定しない形で職場改善に活用されているか
休職、離職、エンゲージメントなどの人材指標とどのように関係しているか

まずは、自社のメンタルヘルス対応の現状を「4つのケア」の枠組みで点検し、それぞれの施策が人材戦略や経営課題とどのようにつながっているかを確認することが、実践的な第一歩となるでしょう。

参考資料

詳しい資料のご請求・お問い合わせはこちら

メンタルヘルス対策・健康経営・産業保健のご相談を承っています

無料で相談してみる

関連記事

TOP