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「残業ゼロ」にしたのに離職が増えた——施策の意図とズレ

残業を減らせば、社員は満足する——その前提は本当に正しいでしょうか

働き方改革の一環として、残業削減に取り組む企業は年々増えています。「定時退社を義務化した」「ノー残業デーを設けた」——そうした施策を導入した後、担当者が期待するのは、社員のエンゲージメント向上や定着率の改善です。ところが現場では、「残業を禁止したら、むしろ優秀な人から辞めていった」「職場の雰囲気が以前より悪くなった」という声が聞かれることがあります。なぜ、善意の施策が逆効果になるのでしょうか。その背景には、施策の設計者と現場社員との間にある「意図のズレ」があります。

① 「時間」を削っただけでは、負荷は消えない

残業削減施策が機能しないケースの多くに共通しているのが、「業務量はそのままで、時間だけを圧縮した」という構造です。

仕事の絶対量が変わらなければ、社員は定時までに終わらせるため、休憩を削り、業務密度を高め、心理的プレッシャーを抱えながら働くことになります。表面上は残業時間がゼロになっていても、ストレスの総量は以前と変わらない、あるいは増加しているケースも少なくありません。

厚生労働省「こころの耳」では、職場のメンタルヘルスにおける重要な観点として、仕事の量だけでなく、質・裁量・職場の支援といった複合的な要因がストレスに影響することを示しています(出典:厚生労働省「こころの耳」https://kokoro.mhlw.go.jp/)。

つまり、残業時間という「見える数字」を減らすことに注力するあまり、社員が感じている「見えないストレス」に目が向かなくなるリスクがあります。仕事のやりがいや裁量、上司・同僚からのサポートといった要素を置き去りにしたまま時間だけを管理しようとすれば、優秀で責任感の強い人ほど「この会社では自分の力を発揮できない」と感じ、離職を選ぶ可能性があります。

② 「一律ルール」が生む、現場との溝

もう一つ見逃せないのが、施策の画一性です。「全社員、18時以降はパソコンをシャットダウン」「一律でノー残業デーを設定」——こうしたトップダウンの施策は、管理のしやすさという点では合理的です。しかし、部署ごと・個人ごとに異なる業務特性や働き方の希望を無視した一律適用は、現場に歪みをもたらします。

たとえば、締め切り前の繁忙期にも強制退社を求められた社員が、翌日の業務に支障をきたす。あるいは、集中して仕事を仕上げたい社員が「なぜ帰らなければならないのか」という不満を抱える。こうした小さな摩擦が積み重なると、組織への信頼が徐々に損なわれていきます。

厚生労働省「職場のメンタルヘルス」でも、働きやすい職場づくりにあたっては、管理職と従業員が対話を重ねながら環境を整えることの重要性が強調されています
(出典:厚生労働省「職場のメンタルヘルス」https://www.mhlw.go.jp/kokoro/workplace/index.html)。施策を「与える」のではなく、社員が「参加できる」プロセスにすることが、現場との溝を埋める第一歩です。

③ 離職を防ぐために、今すぐできること

では、施策の意図と現場の実態のズレをどう修正すればよいでしょうか。以下の3点が、具体的な見直しのポイントになります。

1. 施策の効果を「時間」だけで測らない

残業時間の削減はあくまで手段です。「社員のストレスは軽減されているか」「職場の人間関係は良好か」「仕事へのやりがいは保たれているか」——こうした定性的な指標も合わせて確認することが重要です。ストレスチェックの結果を定期的に分析し、高ストレス者の割合や職場環境の変化を追うことが有効です。

2. 業務量の見直しをセットで行う

残業を禁止するなら、同時に業務量・業務プロセスの最適化に着手しなければなりません。何を削るか、何を自動化・外注するか、優先順位の低い業務は何かを、現場の声を聞きながら整理する機会を設けてください。

3. ラインケアの強化と対話の場の確保

管理職が部下の変化に気づき、適切に声をかける「ラインケア」の機能を高めることも不可欠です。厚生労働省「こころの耳」では、管理職向けのセルフラーニング教材も提供されており、社内研修と組み合わせることで効果的に活用できます(出典:厚生労働省「こころの耳」https://kokoro.mhlw.go.jp/)。

まとめ——施策は「手段」であり、目的は社員の健康と定着

「残業ゼロ」は目標ではなく、社員が健康に・意欲を持って働き続けられる環境をつくるための一つの手段に過ぎません。

施策が独り歩きし、現場の実態と乖離したとき、それは改善のきっかけではなく、離職の引き金になりかねません。

働き方の見直しを進める際には、数字の管理と並行して、社員一人ひとりのメンタルヘルスと職場の心理的安全性に目を向けることが、持続可能な組織づくりの根幹です。施策の意図を現場に丁寧に伝え、対話を重ねながら改善を続ける姿勢が、最終的に離職防止につながります。

◆ 参考資料

– 厚生労働省「職場のメンタルヘルス」
  https://www.mhlw.go.jp/kokoro/workplace/index.html

– 厚生労働省「こころの耳」
  https://kokoro.mhlw.go.jp/

出典:厚生労働省「こころの耳」、厚生労働省「職場のメンタルヘルス」

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